患者中心の医療モデル:あなたの思いを大切にする“いっしょの医療”
みなさん、こんにちは。総合診療医のDIOと申します。突然ですが、みなさんは「医療」と聞くとどんなイメージを持ちますか? 病院やクリニックで医師が患者さんの話を聞いて、検査をして、薬を処方する——そんな流れを想像する方が多いかもしれません。
しかし近年、「患者中心の医療モデル」という考え方が、医療の世界でとても大切にされています。これは、患者さん一人ひとりの生活や価値観、心の声に寄り添い、患者さんと医療者がいっしょになって治療やケアを作り上げていこうという姿勢です。この記事では、医療の専門家ではないみなさんや初心者の方にも分かりやすいように、患者中心の医療モデルの基本や、実際にどんなメリットがあるのか、どんな場面で役立つのか、くわしく解説していきます。
今日の記事は家庭医療分野の考え方としてはとても大切な話題で、私をはじめとした”家庭医”の診察の中心にある考え方です。患者さん側から見たときのメリットも分かりやすく記載したつもりです。是非多くの人に読んで頂ければとても嬉しく思います。本記事は登録していなくても皆さんが読めるようにさせて頂きますので、興味がある!という方はなんとか頑張ってお読みいただければとても嬉しく思います。
1. 「患者中心の医療モデル」ってなに?
1-1. 従来の医療モデルとの違い
従来の医療モデルは「医師が主導し、患者さんがその指示に従う」というイメージが強いものでした。もちろん、医師は医学的な知識や技術を身につけており、患者さんよりは医療のことが詳しいケースが多い科と思います。ただ、“専門家である医師が全てを決め、患者さんはそれに合わせるだけ”という状態では、実はうまくいかないことも少なくありません。病気やケガと付き合うのは患者さん自身だからです。医師の指示があっても、家庭や職場でそれを実行できない事情があるかもしれません。また、人によっては「薬を飲むのが苦手」「どうしても運動が継続できない」「介護や育児などの事情で通院しづらい」など、生活背景はさまざまです。
そこで生まれたのが「患者中心の医療モデル」です。これは、患者さんの意見や価値観を大切にしながら、医師を含む医療者が一緒になって治療方針やケアプランを作るという考え方。患者さんが“病気に振り回される”のではなく、“自分の生活の中でできる方法を取り入れながら、上手に病気と付き合っていく”ことを目指します(1)。「患者中心」という言葉自体、少し偉そぶっているように聞こえますよね。私もこの言葉自体は好きではありませんが、考え方はとても納得いくものだと思いますのでもう少しお付き合いください。。
1-2. なぜ「患者中心」が大切なの?
あなたが病院で処方された薬は、実際に飲むのはあなた自身ですし、生活習慣の改善も本人の努力が必要です。もし、自分の生活環境や考え方と合わない治療法を押し付けられても、続けることは難しいですよね。だからこそ、“自分に合ったやり方”を一緒に考えるプロセスが重要です。
医療者だけでは見えない面があるから医師や看護師がどれだけ優秀でも、患者さんの日常をすべてを理解することはできません。ご家族との関係やお仕事の事情など、医療者だけが分からない問題はたくさんあります。患者さんが「実はこういうことで困っていて……」と話してくれれば、医療者側もそれに合わせたアドバイスやサポートができるようになります。
患者さんの納得感が変わるから患者中心の医療では、患者さんがしっかりと治療方針に納得したうえで行動に移します。“自分が選んだ治療方法”という意識があると、継続しやすく、効果も出やすくなります(2)。
2. 総合診療医・家庭医療理論との深い関わり
ここで少しだけ、「総合診療医」や「家庭医」という存在について触れてみます。
総合診療医(General Practitioner/ Family Physician)は、年齢や性別、病気の種類を問わずに幅広く診療する医師です。日本では“かかりつけ医”という言葉が近いイメージかもしれません。家庭医療理論とは、この総合診療を体系的にまとめた学問分野で、患者さんの生活背景や家族・地域の状況まで考慮したケアを重視します(3)。
総合診療医や家庭医が普段から大切にしているのが、この「患者中心の医療モデル」です。患者さんがそれぞれの生活の中で、どんな思いを持って日々過ごしているのか、何を大切にしているのかを理解し、その人に合った医療を提供していく——そんな姿勢が家庭医療理論の根幹にあります。たとえば、高齢の方が「病院通いが大変。週に何度も通院するのはつらい」という場合、近所の薬局や訪問看護、地域包括支援センターなどと連携しながら、なるべく通院の負担を減らす計画を立てることができます(4)。
3. 患者さんにとってのメリット
ここからは、患者さんから見た「患者中心の医療モデル」の具体的なメリットを紹介していきます。
3-1. 納得感が高い治療が受けられる
先ほども触れましたが、「自分がなぜその治療をするのか」を理解し、納得したうえで実行できます。医師が一方的に処方した薬より、「先生と相談して、理由を聞いて、納得できた薬」のほうが続けやすいですよね。納得感がある分、治療を継続する意欲(アドヒアランス)が高まり、結果的に病気のコントロールも良くなると言われています(5)。
3-2. ストレスを減らし、気持ちに余裕が持てる
「自分の気持ちなんて分かってくれない」「どうせ医療者に言っても仕方ない」と思うと、それ自体が大きなストレスになります。一方、患者中心の医療を実践している医療者は、患者さんの悩みや不安にじっくり耳を傾ける姿勢があります。きちんと聞いてもらえるだけでも、気持ちが楽になることは多いものです(6)。
3-3. 自分のペースで治療を進められる
家庭や仕事の事情、経済状況などによって治療のペースは異なるもの。患者中心の医療モデルでは、こういった生活背景を加味しながら治療計画を立てます。たとえば「忙しくて週に1回しか通院できない」「薬の副作用が怖いから少しずつ試したい」といった要望にも可能な限り寄り添うため、生活と治療のバランスが取りやすくなります(7)。
3-4. 医療者との信頼関係が深まりやすい
医療者と患者さんが対等にコミュニケーションを取るため、“対話の相手”としての信頼関係が生まれやすくなります。信頼関係が築けると、「こんな些細なこと、言っていいのかな?」と遠慮せずに相談しやすくなり、結果として健康管理がスムーズに進みます。
4. 患者中心の医療モデルを体験してみよう
では、患者中心の医療モデルは具体的にどのように体験できるのでしょうか? 以下に、診察の流れを例にとってお話しします。
4-1. 診察のはじめ:あなたの声を引き出す
オープンな質問医療者から「今日はどんなことでお困りですか?」「最近、生活はどうですか?」といったオープンな質問があるかもしれません。これは、患者さんが自由に話しやすいよう配慮した質問です(8)。自分の症状だけでなく、「実は最近、仕事のストレスが多くて……」というようなことも、遠慮なく話してみてください。そうすることで、医療者も「ストレスが症状に関係していないか」といった視点を得られます。
共感的な傾聴あなたが話している間、医療者がしっかりと視線を向けてうなずいてくれたり、「なるほど、それは大変でしたね」などと声をかけてくれるはずです。これは“共感的な傾聴”というスキルで、患者さんの気持ちに寄り添いながら話を聞く姿勢を表しています(9)。
4-2. 中盤:治療や検査の選択肢を一緒に考える
複数の選択肢の提示診察や検査が進んだあと、「考えられる治療方法は主に2つあります」といった具合に選択肢が示されます。たとえば「薬による治療」と「食事や運動療法を強化してしばらく様子をみる」など、方法が複数ある場合があります。ここで大切なのは、それぞれのメリット・デメリットを理解することです(10)。疑問点は遠慮なく質問しましょう。
あなたの気持ちや希望を確認医療者は「どちらを選択したいですか?」とあなたの意見を尋ねることがあります。ここで「正解はどれですか?」と聞きたくなるかもしれませんが、大事なのはあなたがどちらに納得できるかです。もちろん医学的に推奨される方向はありますが、たとえば「副作用が少し怖いので、まずは生活習慣の改善から始めたい」という気持ちがあるならば、素直に伝えてみましょう。
4-3. 診察の終わりから次回へ:フォローアップの約束
実行プランのすり合わせ「薬を飲むタイミングは朝食後、夜勤のある日はどうするか?」など、具体的にどう実行していくかを話し合います。必要なら家族や職場の協力も検討します(11)。
次回診察・フォローの計画患者中心の医療では、治療を始めて終わりではありません。治療や生活習慣の変化をしばらく続けてみて、その結果を見ながら調整を行う作業が大切です。次回の受診日を決めたり、血圧や体重を自宅で記録しておく宿題が出ることもあります。生活の中で分からないことや不安な点が出てきたら、メモしておくと次回の診察で相談しやすいですよ(12)。
5. もし「患者中心の医療」を受けたいと思ったら
「そんな診療をしてもらえるお医者さんに出会いたい!」と思っても、なかなか分からないこともありますよね。以下に、実際に受診する際のヒントをまとめました。
かかりつけ医を持つ身近なクリニックを一つ見つけて、そこを第一に受診し相談する「かかりつけ医制度」は、患者中心の医療モデルととても相性が良いです。長く通院するほどにあなたの生活背景を把握しやすくなり、話もしやすくなります(13)。
診察で感じたことを正直に伝える「時間が短くて不安なことを聞きそびれた」「難しい言葉が多くて分からなかった」などあれば、次回の受診や、受付スタッフへの相談のタイミングで伝えてみましょう。医療者側も、あなたが気になることに気づけない場合があります。
質問を遠慮しない治療方法や検査について疑問があれば、率直に聞いてみてください。「こんな質問したら嫌がられるかな?」と思わず、あなたの体に関わる大事なことですから、どんな小さな疑問も大切にしましょう。
インターネット情報を活用するときはバランス感覚を今はネット検索ですぐに情報が出ますが、中には正確でない情報も混ざっています。「こんなサイトに書いてありましたが、本当ですか?」と医療者に質問してみると、安心できる場合もあります(14)。
6. 患者中心の医療を支える多職種チーム
患者中心の医療は、医師だけで完結するものではありません。看護師、薬剤師、管理栄養士、リハビリスタッフ、ソーシャルワーカー、行政や介護スタッフなど、多職種の連携が欠かせない時代です(15)。
たとえば、高血圧や糖尿病などの慢性疾患がある方は、薬の飲み方や生活習慣の改善指導だけでなく、食事のカロリー計算や運動療法の相談なども必要です。管理栄養士や運動指導士とタッグを組むことで、患者さんに合わせたプランを作りやすくなります。また、家族の介護や自身の介護が必要な場合、社会的なサポート(訪問看護やデイサービスなど)を利用するかもしれません。その調整にソーシャルワーカーが活躍してくれます。医師1人で抱え込むのではなく、みんなで役割を分担し、それぞれのプロフェッショナルの力を合わせることで、患者さんを総合的にサポートしていくのです。
7. 患者中心の医療モデルを取り入れるうえでの課題
もちろん、患者中心の医療モデルを実践するうえで、いくつかの課題もあります。
診療時間の制約外来は患者数が多く、1人ひとりに十分な時間を割けない場合があります。理想としては長めの診察時間を確保したいところですが、現実には厳しい場面も多いです(16)。対策例: 事前に問診票を工夫する、看護師の予備診察で質問を洗い出しておく、など。
対策例: 事前に問診票を工夫する、看護師の予備診察で質問を洗い出しておく、など。
医療者側の意識の違い患者中心の医療モデルを知っていても、従来のパターナリスティック(医師主導)な指導になってしまうケースもあります。対策例: 医療者向けの研修や勉強会で“患者中心のコミュニケーション”を実習する、チーム内で共有する、など。
対策例: 医療者向けの研修や勉強会で“患者中心のコミュニケーション”を実習する、チーム内で共有する、など。
患者さんの理解度・情報リテラシー医療情報を調べすぎて混乱してしまう方もいれば、逆に「医師にお任せするしかない」と思い込んでしまう方もいるかもしれません。対策例: 何度でも質問してもらう仕組みづくり、教えてもらった内容を復唱して確認する「Teach-back」などが挙げられます。
対策例: 何度でも質問してもらう仕組みづくり、教えてもらった内容を復唱して確認する「Teach-back」などが挙げられます。
社会保障や医療制度の問題診察回数や費用負担、保険の範囲など、制度上の問題も絡んできます。対策例: ソーシャルワーカーや専門の相談窓口と連携し、利用可能な制度を最大限に活用する。
対策例: ソーシャルワーカーや専門の相談窓口と連携し、利用可能な制度を最大限に活用する。
8. 私(執筆者)の経験談:患者さんとともに歩む医療の力
私自身、総合診療医として日々患者さんと向き合うなかで、「患者中心の医療って本当に大事だな」と実感する場面が多々あります。
たとえば、ある高血圧の患者さんは、夜勤が多い仕事柄、生活リズムが不規則でした。最初は「薬をきちんと朝晩飲みましょう」と伝えていたのですが、どうしても夜勤の日は飲み忘れがちに。そこで患者さんと話し合ったところ、「夜勤に合わせたタイミングで薬を飲めるように、起床後に必ず飲む方法を確立するのがいいのでは?」というアイデアが出ました。私だけでは思いつかなかったスケジュール調整でしたが、患者さんご自身が「このタイミングなら飲める!」という方法を提案してくださったのです。実際にそれがうまくいき、血圧のコントロールが良くなっただけでなく、患者さんも「自分の提案が活かされた」と感じてモチベーションが上がったそうです。このように、患者中心の医療は“患者さんの工夫”や“生活の知恵”を引き出す大切な機会でもあります。医療者があれこれ指示するより、患者さん自身が納得する形を模索したほうが結果として良い方向に進むことが多いと感じています。
9. まとめ:患者中心の医療がもたらす、あなたらしいケア
患者中心の医療モデルは、「あなたがどう感じているか」「どんな生活をしているか」を一番大切に考えます。もちろん医療者の専門知識は必要ですが、最終的には患者さんの人生や価値観に合わせた医療であることが理想です。
納得のいく治療やケアを受けられる
ストレスや不安を医療者と共有しやすい
実践的で続けやすい方法を見つけられる
医療者との信頼関係が育つ
このように、患者中心の医療には大きなメリットがあります。もし「こういう医療を受けたい」「自分の思いをもっと尊重してほしい」と感じたら、ぜひかかりつけ医や通院先の医療者に相談してみてください。医療者側もできる限りあなたの気持ちを理解し、サポートしようとしてくれるはずです。
最後になりますが、私も総合診療医として、患者さん一人ひとりが抱える“物語”に耳を傾けることを常に心がけています。病気や症状だけでなく、そこに至るまでのストーリー、そしてその先にある未来を見据えたケア——それこそが、患者中心の医療モデルが目指す姿なのです。少しでも多くの方が、この考え方を知り、実際に体験していただければと思います。
参考文献
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Stewart M, et al. Patient-centered medicine: transforming the clinical method. 2nd ed. Oxford: Radcliffe Publishing, 2003.
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